「間取りの打合わせでハウスメーカーから『天井高は270㎝まで上げられる』と言われたのですが、天井高はやはりできるだけ高くしておいた方が広く見えるのでしょうか?」
読者さんからこのような質問をもらいました。
確かに「天井は高い方がいい」という内容のCMがあるように、天井はできる限り高くしておいた方が部屋が広く見えそうなイメージがありますよね。
では、実際に天井の高さは可能な限り高くしておいた方が良いのでしょうか?
今回はそんな家の天井高について、建築士の立場からお伝えしたいと思います。
家の天井高が気になる方や開放感のある家にしたい方はぜひご覧ください。
天井の基本的な高さ
快適な天井高について見ていく前に、まずは一般的な家の天井高ってどれくらいなのでしょうか?
その答えは「240㎝」です。
昔の日本の家屋では天井高が220㎝くらいの家が多くありましたが、日本人の平均身長が高くなるのと共に畳の上に座る生活から洋風な生活に変わるにつれて天井高が高くなり、今では240㎝が一般的な家の標準の天井高となっているんですね。
そして家の部材も240㎝の天井高さに合わせて作られるようになり、効率的に家が建てられるようになりました。
このように一般的な天井の高さは240㎝となっていますが、ハウスメーカーの中には天井を240㎝よりも高くできることをウリにしたCMを流している会社もありますし、ハウスメーカーだけでなく工務店などの住宅会社も240㎝よりも高い天井高にしているケースも多く見られます。
(このような高い天井は「高天井(たかてんじょう)」と呼ばれることもあります」)
では、実際に天井高を高くした時のメリットとしてはどんな事が挙げられるでしょうか?
まずは天井を高くした時のメリットについて見てみましょう。
天井を高くした時のメリット
天井を高くした時のメリットを見てみると、
- 開放感のある空間にしやすい。
この1点につきます。
やはり天井を高くする事で開放感のある空間にしやすいというのは事実です。
特に吹き抜けや勾配天井を使って天井高を上げると、空間が一気に広がりとても開放的な空間にすることができます。
→吹き抜けのメリット、デメリットと失敗しない吹き抜けの作り方
また、天井が高ければ窓を高い位置に設けて光を家の中に入れるということも可能になります。
これは明るい家にしたい場合や、近くに家が建っていて日当たりがあまり期待できない場合は特に効果的な方法で、天井が高いからこそのメリットと言えます。
このように天井を高くすると開放感や明るさという点で大きなメリットがありますが、天井を高くする事でデメリットもありますし、天井を高くする場合に注意しておきたい点というのもあります。
それでは天井を高くした時のデメリットや注意点についても見てみましょう。
天井を高くした時のデメリット
天井を高くした時のデメリットって何でしょうか?
天井が高い時のデメリットを挙げてみると、
- 冷暖房の効率が下がる
- 材料費が余分に掛かりコストアップになる
- 階高が高くなって階段が増えたり外観に影響が出る
- 狭い部屋では逆効果になることも
この辺りが天井を高くした時のデメリットとなります。
意外と多くあるんですね。
それでは1つずつ見てみましょう。
天井が高いと冷暖房の効率が下がる
天井を高くするという事は、部屋の容積が増えるという事。
そのため天井を高くした分だけ冷暖房の効率は下がることになります。
特に吹抜けや勾配天井といった大空間にした時は影響が大きくなってきます。
ただ、最近の家では断熱性能や気密性能が高い家が増えてきているので、それに合わせて天井を高くしたから寒い、暑いという家も少なくなっています。
天井を高くするなら、断熱性能や気密性能の良い会社で家を建てる。
まずはこれが基本となってくるんですね。
天井を高くするとコストアップにつながる
天井を高くすると、その分だけコストが掛かることになります。
10㎝や20㎝など少し天井を高くしただけでは壁紙などが多く必要なだけでそれほど大きなコストアップに繋がりませんが、天井を3mを超える高さにするなど天井高を一気に上げる場合は家の柱を太くしないといけないなど大幅なコストアップにつながるケースもあります。
そのため天井を高くする場合、そのコストに見合う価値があるかどうかが天井を高くするかどうかの判断の1つのポイントとなってくるんですね。
階高が高くなって階段が増えたり外観に影響が出る
天井を高くするということは、それだけ家の高さも高くなるということになります。
天井高さを確保するために、家を上に伸ばすという訳ですね。
そのため、天井を高くした分だけ家の階段も増えることになります。
また、意外と気付きにくいことなのですが、階高を上げることで家の外観にも影響が出てきます。
天井を高くするためには上図の右側の家のように家の軒や階高を高くする必要があるんですね。
実はこの階高というのは家の外観に大きな影響を及ぼすもの。
あなたは先ほどの右側の家と左側の家ではどちらの方が落ち着いた外観に見えますか?
左側の家の方が重心が低くて落ち着いた雰囲気になっていますね。
このように家は軒の高さが高ければ高いほど重心も高くなり、合わせて外観のバランスも悪くなるという性質があります。
そのため、家の外観を考えるなら階高に影響しない範囲で天井を高くするようにしておくのがポイントとなってきます。
天井が高いと狭い部屋では逆効果も
狭いスペースでは、天井を高くすることでその狭さを強調してしまうケースも有ります。
天井の高さに対して部屋やスペースの広がり、幅が少なくアンバランスに見えてしまうんですね。
例えば、天井の高い廊下というのも縦ばかり強調されて逆に細く見えてしまいますし、子供部屋など通常はあまり広さを取らない部屋の天井高を高くしても落ち着かない空間になりがちです。
そのような空間では高さを強調するよりも窓で外の空間を取り込むなど横に広がりを持たす方が効果的なんですね。
そのため、天井を高くする場合はどこもかしこも天井を高くするのではなく、LDKなど広い場所にするなどの配慮も必要になってきます。
天井は高い方がいいの?
ここまで天井を高くした時のメリットとデメリットについて見てきました。
では、開放感を出す時は天井は高くした方がいいのでしょうか?
答えは、
「ただ天井を高くするだけでは効果はなく、どれだけ空間に抜け感を作れるか」。
これが重要となります。
具体的にどういうことか見てみましょう。
天井は低い方が空間が広く見える
ハウスメーカーの広告の影響か「天井は高い方がいい」というイメージを持たれている方も多いと思います。
ただ、実は同じ面積の場合は基本的には天井が低い方が空間が広く感じられます。
意外かもしれませんが、天井がただ高ければ広く見えるという訳ではないんですね。
また、「天井は低い方が落ち着いてキレイに見える」と感じる建築家は多くいます。
特に和室などは座ることを前提に作られた空間なので、天井が高すぎるとバランスが悪く見えてしまうケースがほとんど。
そのため小上がりにした分、天井が低くなっている和室が多いのも頷けますし、実際に和室に座ってみると天井が低い方が落ち着くことが分かります。
→小上がりの和室ってどうなの?小上がり和室のメリットとデメリット
また、住宅設計でその名を知らない人はいない宮脇檀さんや吉村順三さんも、天井高を低く抑えた名作を世に多く残しています。
最近では売れっ子建築家の伊礼智さんが標準の天井高を221.5㎝に、時には部屋として1番低い高さの210㎝に設定して、とても素敵な家を作られています。
Photo:https://www.takachiho-shirasu.co.jp/case/select/detail.php?id=20
天井高が210㎝とは思えないくらい空間に広がりがありますね。
もちろん、天井高を低くすることで圧迫感も出やすくなってしまうので、視線が抜ける場所をつくって圧迫感を減らす工夫がなされています。
先ほどの画像では壁の真ん中に窓を設けるのではなく、壁からひと続きで外までスッと抜けることで空間の広がりが生まれているなど、家の見え方、バランスについて配慮されているのがよく分かります。
天井高は低いほど視覚的に広く見えやすくなりますが、その分、抜け感を出すなど技術やセンスが問われることとなってくるんですね。
ここで覚えておきたいのが、「抜け感」を出すことで空間の広がりが変わるということ。
これは開放感を出すなら必ず覚えておいてくださいね。
下がり天井でメリハリをつける
Photo:https://mukuri.themedia.jp/posts/6233610/
天井高は上げるだけでなく、敢えて低い場所をつくることで空間にメリハリをつけてアクセントにするという方法もあります。
天井が低いことで落ち着きのある空間を作ることができるんですね。
また天井高が低い場所だけ仕上げを変えてあげると、よりメリハリがつくようになります。
その他、天井が高い場合は下がり天井に間接照明を付けるという方法も。
Photo:https://www.reposhouse.com/
間接照明を付けて雰囲気のある空間を作りたいという場合は、このような方法も効果的です。
そしてこのような下り天井を作る場合は窓や建具のすぐ上に下がり天井を設置するなど、いかにスッキリ綺麗に見えるか意識すると、より魅力的な空間になります。
このように1つの空間で天井高を変える場合、作り方次第で雰囲気は大きく変わるので、上手くポイントを押さえてお洒落な空間を作りたいですね。
→下り(さがり)天井で空間をおしゃれに!失敗しない下がり天井のつくり方
開放感を出すのに大切なこと
Photo:https://www.daiwahouse.co.jp/column/lifestyle/tenjo-hirogari/index.html
上の画像は高い天井で有名なダイワハウスの画像です。
一般的な天井の部屋と天井が高い部屋を比べて見ると、天井が高い方が開放感があるように見えますね。
では、どうして開放感があるように見えるのでしょうか?
それは天井一杯まで窓が有るからです。
もし窓の大きさが同じで天井の高さだけが高くなっていたとしたら、実はそれほど開放感を感じることはありません。
これは先ほどの「抜け感」の話と同じで、天井を見上げると遮るものがなく外まで見えるというのは、思う以上に開放感をもたらしてくれます。
このように天井を高くするのであれば、その分だけ開口部も綺麗に見えるようにするというのが開放感を出すには効果的なんですね。
天井の高さという「数字」だけを見るのではなく、視線が抜けて空間全体に広がりが出るようになっているか。
これが重要なんですね。
もちろん、高い天井というのは開放感を出すのには効果的な手法ですので、低い空間に吹き抜けや勾配天井などを組み合わせるのも効果的です。
天井の低い空間から高さのある空間へ出ればより開放感を出すこともできますし、反対に広い空間から天井の低い空間へ移動することで落ち着き感をより感じられるようになります。
天井の高さを上手くコントロールすることでメリハリのある住まいになるんですね。
この部分が天井の面白いところでもあります。
それでは最後にLDKで開放感を出すための具体的な天井高を挙げておきます。
- 天井高は240㎝〜260㎝ほどで、可能な限りサッシの高さを天井高と合わせる。(天井高を上げる場合は階高に影響しない範囲で)
- 中途半端に天井高を上げるなら、吹抜けや勾配天井で一気に空間を広げてメリハリをつけた方が効果的。
- 抜け感を意識して窓を配置する。
この辺りを意識しながら家をつくると、より開放感を感じられるようになりますよ。
まとめ
今回は家の天井高について見てきました。
天井を高くする場合は開放感を出したいケースがほとんど。
そのため、天井の高さは高ければ高いほど開放感があるというイメージを持ってしまいますが、天井を高くするのは開放感を出すための1つの手法です。
天井を高くするのが目的ではなく、同じ面積でより広がりを感じられる家にするのが本来の目的なので、そのためにどう空間を作るかが重要なんですね。
まずは抜け感を意識した上で、時に天井を高くしたり、敢えて低くしてメリハリを作りつつ開放感を出す。
このようなスタンスで天井高を整えるのがベストなんですね。
天井の作り方次第で空間の見え方は大きく変わってきます。
ぜひ天井を上手く使って広がりの有る家にしてみてくださいね。
では。
天井についてはこちらも参考にしてください。
→下り(さがり)天井で空間をおしゃれに!失敗しない下がり天井のつくり方
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建築士が実際に見てきた全国の優良工務店を掲載。
家づくり、土地探しに必要な情報はこちらにまとめています。家づくりの参考にどうぞ。
→土地探しから始める人のための、失敗しない土地の購入方法【絶対保存版】
→家を建てる前に必ず知っておきたい理想の家を建てる方法【絶対保存版】
→注文住宅を建てる前に必ず知っておきたい!注文住宅のメリットとデメリット
建築士が教える今日の問題解決
天井の高さはどれくらいにすればいい?
- LDKの天井高は240㎝〜260㎝ほどで、可能な限りサッシの高さを天井高と合わせる。
- 吹抜けや勾配天井で空間にメリハリをつけると効果的。
- 視線の抜けを意識するのが開放感を出すポイント。