こんにちは、O型建築士です。
今回は「2階リビングシリーズ」の最終回として、ある老夫婦の方と家づくりにまつわる話をお送りします。私がまだ駆け出しだったころ、老夫婦に家づくりの考え方を教えてもらった出来事です。皆さんも家づくりを迷った時の参考にされてはいかがでしょうか?
家の建て替えかリフォームか
今から7、8年程前になります。会社の近くに住む老夫婦が、会社を訪ねてこられました。歳は60を超えたくらいでしょうか。を話を伺ってみると、家が古くなって生活に不便を感じるようになったから、家の建て替えかリフォームを検討しているとの事でした。
家を見てみない事には、家の立て替えがいいのかリフォームの方がいいのか判断がつきません。数日後、老夫婦の家を訪ねて家を調査することになりました。家に行って調査してみると、家の土台部分の損傷が激しくリフォームをしてもその場しのぎの工事しかできず、大掛かりな改修工事をするなら新築の家と同じくらい金額が掛かりそうな内容でした。
この内容を老夫婦に伝え相談した結果、家を建て替える方向で話がすすむ事になりました。
家を建て替える
家の建て替えの際に最重要となるのが、新しい家の間取りです。建て替えの場合、土地を買って家を建てるのとは違いその土地に長い間住んでいます。そのため、老夫婦は土地の良いところ悪いところもよく分かっていますし、今の暮らしでの問題や不満を解決できないと家を建て替える意味はありません。
そして、老夫婦との打合せで1番困難を極めたのが、リビングを従来通り1階にもってくるのか、それとも2階リビングの家にするのかでした。
老夫婦は建て替える前の家と同じように1階リビングの家を想定していました。ところが、土地自体そんなに広い土地ではなく、日当りにかなり懸念がありました。さらに要望を加味すると、2階リビングの方が条件に合った良い家ができそうな内容です。そこで、1階リビング、2階リビングそれぞれの間取りを提案することにしました。当初、老夫婦は2階にリビングがある家など想像した事もなかったようでしたが、2階リビングの生活スタイルにとても好感を持ってくれました。もちろん、老夫婦のケースであれば老後の心配がすぐに必要になる可能性が高いことも説明する必要がありました。
その後、2階リビング「1階リビングならこの間取り」「2階リビングならこの間取り」というところまで話が進み、あとは夫婦で話し合い、1週間後の打合せの日にリビングをどちらにするか決めるという事になりました。
要望のボリュームからいくと2階リビングの家の方が1、2階ともキレイにおさまり、生活していても楽しそうです。一方、1階リビングの場合では、リビングにプラスしてもう1部屋を設けてどちらかが寝たきりの場合になっても、1階ですべて対応できるような間取りでした。
「2階リビングの家の方が間違いなく楽しい暮らしが送れる。でも、老夫婦であればいつ体が動かなくなるかも分からないので、1階リビングの家を選ぶ事になるんやろうなぁ」と、当時の私は考えていました。
老夫婦の出した答え
そして1週間後。老夫婦の出した答えは2階リビングの家でした。
私は老夫婦にたずねました。
「なぜ2階リビングの家を選ばれたんですか?」
老夫婦はこう答えました。
「2階にリビングがある家を提案してもらった時はすごく楽しかった。でも、私たちはお互いの将来の事を考えると、やはり1階リビングの家にするしか無いだろうと言う話を3日前までしていました。そんな時、私たちはなぜ家を建て替えるのかもう一度考えてみました。今の家の一番の不満は日当り。この不満を解消したいから家を建て替えようと決心したことを思い出しました。だから、私たちは2階リビングの家を建てる事にしたのです。それに私たちはまだ60歳を過ぎたばかり。家をもっと楽しみたいですから。」
家を建てたその後
2階リビングの家を建てるのを決めてから、8ヶ月後。家は完成しました。もちろん、階段をゆったりつくったり、将来ホームエレベーターを付けられるスペースをつくるなど、将来に対する準備は万端にした上で2階リビングの家は完成しました。
今でもたまに伺うと、明るいリビングに面した広いバルコニーの片隅に大きな箱が置いてあります。中身はお酒の空き缶です。明るいリビングにいるのが楽しくてついつい飲み過ぎてしまうそうで、空き缶置き場をつくったとの事。「階段もまったく問題ないし、家にいるのが楽しくて仕方がないのよ。よかったらあなたもお酒飲んでく?」みたいなやり取りが繰り広げられ、家を建てる前よりも若々しく感じられます。
この方の家づくりは、「今の問題を解決するための方法が2階リビングだった」という事ですが、「なぜ家をつくるのか」という事の重要性を気付かせてくれたのは、この老夫婦が真剣に家の事を考えてくれたおかげです。
私が考える、2階リビングの家の使い方
その後も何十棟もの2階リビングの家を担当させてもらいました。もちろん、2階リビングが嫌いな人には提案はしませんが、2階リビングを建てる人には必ずお話している事があります。
「もし将来、歳をとって2階リビングが辛くなった時はリフォームするという方法もあります。でも、2階リビングが似合う若い人に貸してあげるというのも1つの方法じゃないでしょうか?」
日本の賃貸事情はよくありません。若い人を中心に嗜好がより多様化している中、同じような形の性能も仕様も良くない賃貸住宅が巷に溢れかえっています。しっかりした性能をもつ2階リビングの家であれば、将来自分たちが2階リビングが辛くなった時に、その家を必要としている若い人に貸し出し、その時の自分たちに合う物件に移るという暮らし方も有りなのではないでしょうか。
「2階リビングだから将来〇〇」では無く、「柔軟にリビングを楽しむ」。
そんな生活はとても楽しそうですね。
では。
2階リビング についてはこちらを参考にしてください。
家づくり、土地探しに必要な情報はこちらにまとめています。家づくりの参考にどうぞ。